バニラは暇を見ては近辺を散歩しているそうで。
 騎士団の稽古場で知り合った管理人のオジサンと仲良くなったそうだ。
 私だったら一人で、騎士団の稽古場なんて怖すぎて近づけないというのに。
 バニラは好奇心旺盛で、人見知りなんて一切しない子だから。
 すぐに誰とでも打ち解けるようだ。

 バニラに案内された騎士団の稽古場というのに到着すると。
 真っ先に40代くらいの髭を生やしたオジサンが「よっ」と話しかけてくる。
 門を開けてもらい、中に入ると。
 オジサンは私を見て「おっ」と声を漏らした。
「バニラちゃん。今日はご主人様と一緒かい」
「ええ、紹介します。こちらは太陽様の奥方の・・・セッ」
 セッ…と言いかけてバニラはごほんっと咳き込んだ。
「マヒル夫人ですわ」
「まひる…」
 夫が太陽だから、とっさに思いついたのが真昼か…と思ったけど。
 これと言って呼び名を考えていなかったわけだし。
「どうも、マヒルといいます」
 頭を下げると、オジサンはにやにやと笑っている。
「太陽にこんな美しい奥さんがいるとは! アイツごときがっ」
「主人をご存知で?」
「勿論。俺はここで稽古している騎士全員を知っているからね」
 と言ってウインクしてきたオジサンにうえっと言いそうになった。
「マヒル様。コチラはケン様です。ケン様は昔、優秀な騎士だったそうですわ。マヒル様。足元お気をつけて」
 バニラとケン様と呼ばれるオジサンの2人は仲良さげに話している。
 ケン様はソフトモヒカンな髪型に立派な髭をはやして、服装は黒い半袖に黒いズボンと随分とラフな格好をしていた。
 騎士団はバッキバキに鍛えているけれど、ケン様は引退して結構時間が経っているんだろうな。中年太りという言葉がふさわしい。

 暫く歩くと、野球場のような広場が見えてきた。
 広場の周りはフェンスで囲われている。
 広場には、鎧を身に着けた騎士団の人達や、制服姿で剣の稽古をしている人達がいる。
「俺はここ一体の管理を任されていてねえ。本来は女性立ち入り禁止なんだけど、バニラちゃんの頼みとあっちゃ断れないわけだよお」
「さすが、ケン様!」
 横目でバニラとケン様の会話を聞きながら。
 バニラって凄いなと感心する。
「危ないから中には入れないけどね。ここから見るだけでも充分だろ」
「ありがとうございます」
 端っこで眺めるだけだけど、ワクワクする感じがある。
「ケン様、騎士団っていうのは部隊ごとに分かれているんですか?」
 バニラは遠慮することもなく、ガンガン質問している。
 ここに来られるだけでも貴重だというのに。
 そんな質問する度胸は私にはない。
「あれ、バニラちゃん知らないの? うちの騎士団は大きく分けて頭脳班と肉体班に分かれてんだよ」
 それって、国家機密じゃないのか?
 不安になってケン様を見るが、バニラとケン様の会話は止まらない。
「まあ、知りませんでしたわ! 何ですの? 頭脳班と肉体班って言うのは」
「頭脳班は簡単に言えば戦わないチームってことさ。奴らの親玉は蘭様になる。肉体班っていうのは目の前で稽古している奴らさ。主に戦に駆り出される。奴らの親玉は国王になる。不思議だよな。騎士団の中でもビミョーに派閥が出来上がってるんだよ」
「へえ~」
 思わず、感嘆の声を漏らしてしまう。