王族ってもっと沢山いるイメージだったんだけどなあ。

 王家近くの村に引っ越してきて一ヵ月。
 私の仕事は週に2日、国王の甥っ子様と姪っ子様にピアノを教える仕事だけだ。
 王族って言っても、国王から見て4等身とか5等身ぐらいの人間を教えると思っていたのに。こんな得体の知れない自分がいきなり、教えてしまっていいのだろうか。

 それとも、太陽様というのは国家騎士団の中でも信頼のある人間なのだろうか。
 講堂と、自宅を行き来するだけの一ヵ月。
 変化はある日、訪れる。

「スズラン様が熱を出してしまったため、本日のレッスンはお休み願います」
 何かを見ながら棒読みするかのように冷たく侍女が言い放った。
 こっちが、「わかりました」と言う間もなく頭を下げて侍女は出て行ってしまった。

「キャンセルかあ」
 私はスズランのために用意した楽譜を、ぱたんっと閉じた。
 スズランは最初こそ嫌がってはいたけど、練習はしてきてくれているので有難い。

 せっかく、講堂に来たのだし何か弾いていくか。
 激しめの曲でも弾いてやろうと鍵盤に手を添えて弾き始める。
 講堂は開けっ放しなので、誰かが入ってきても気づかなかったのか。
「本当にピアニストだったんだな」
 という声がして、見ると騎士団の男が立っていたので、「ぎゃー」と悲鳴を上げてしまった。
 今まで見てきた騎士団は制服姿の人達だったけど。
 目の前にいる男は戦闘態勢なのか、顔には鉄の鎧がはめられていて素顔が見えない。
 立ち上がって、後ろのめりになると、男は鎧を取った。
 金色の髪の毛がふさっと現れ、青色の瞳がこっちを見つめる。
 この前、会った太陽様の上司だ…
 会うのは2度目だけれど、鎧姿が怖くて声が出ない。
 男のほうも、じぃーとこっちを見てくる。
「わ、私。不審者じゃありません」
 この前会った時から、絶対に怪しまれているのはわかっている。
 名前を確認されたし、今だってそうだ。
 そもそも、王家に自分のような得体の知れない海外の人間がいること自体、異常に思われているに違いない。

 足がガタガタと震えてくる。
「陛下っ! お呼びでしょうか」
 震えているところに、聴き慣れた声が響いた。

 入口に立っているのは、太陽様だった。