「っ、青沢さん!!…申し訳ありませんお客様、どうかされましたか!?」

 店の奥からもうひとりの店員がようやく気付いたらしく出てきてそう尋ねるが、酔った客は黙り込んでいる。

「…この客が彼女に、このホットフードの紙袋にアイスを詰めろと言って困らせていました。彼女は悪くない。こんな小さな袋に入るわけがない。しかも紙の」

 彼女の代わりに俺がそう説明すると、彼女もようやく声を震わせながら店員に頭を下げる。

「…すみません、チーフさん…こちらのお客様は、私を心配して下さって…だから……」


 チーフの店員が迷惑客に謝罪の言葉を言い何度か頭を下げると、客は何も言わずにふらつきながら店を出ていった。

 彼女の方は床にへたり込み、下を向いている。

「…俺、彼女をタクシーに乗せて送ります。これじゃきっと働けないでしょう?」

 俺がそう言うと彼女は涙目の顔を何とか少し上げ、店員は困惑顔で俺を見つめる。

「お客様…」

「俺は彼女と少し顔見知りなんで。俺は黒川といいます。…『青沢』さん、立てる?」

 俺は店員にきっぱりとそう返し信用させるために名乗ると、次は名前をしっかりと覚えたばかりの彼女に向かって声をかける。

 彼女は震えたまま頷くと、タクシーを呼ぶあいだにおぼつかない手付きで何とか着替えて店の奥でしばらく座り、俺とともに荷物を持って店を出た。