他人なんて気にしない。
 そんな俺が、どういうわけか自分からこんなことを言うなんて…

 彼女はまだ泣きながら、低い背で下から俺をそろそろと見上げて返した。

「っ…私、分かってました…分かっている、つもりだった…でも、あんなにハッキリと言われたら…。私、本当に…」

 本当にあの男が“好き”だったらしい。
 彼女はもう言葉も出てこない様子でまた泣き出す。

「…本当にもったいない男だな、アイツ…。こんな良い子を捨てて…」

 …こんな、正直そうで清純そうな…
 そんな彼女を俺が奪ったら、どんなに気分が良いだろう。

 …自分のものに、してみたい…

「ありがとうございます、私を心配してもらって…。分かってたのに、自業自得なんです…。でも…」

 彼女はようやく泣き止むようにして顔を上げ、俺を見た。

「…前、見ます…。諦める、とか、諦めない、とかじゃなくて…。私、一生懸命に前を見て生きていかないと…。そうしたら…いつか私でも、誰かの役に立てますよね…?」

 彼女の濡れていた目が輝いて見えた。

 俺にはない、彼女にある未来への希望のせいだろうか?
 それだけで、こんなに輝いて見えるものだろうか…?

 彼女は気付き少し慌てて頭を下げる。

「すみません…!ほ、本当に、ありがとうございますっ」


 下を向き顔を赤らめたまま、彼女は行ってしまった。

 泣き顔と照れた顔、そしてあの言葉。
 どれも彼女の穏やかで真っ直ぐな性格が俺には見て取れるようだった。
 俺の中に奇妙な感覚が広がる。

 …まあいい、俺はどうせ嫌われる。
 たとえ少しの間、俺のそばにいたって…

 早く忘れよう、彼女のことは…