それからはずっとあまり食べられず眠れず、モヤついた気分のまま過ごした。

 仕事をしているときだけはナツを忘れられる。
 しかしふと我に返ると、やはり思うのはナツのことばかりだった。



「どうした黒川?最近はなんだか何かに必死だな」

 数日経った日の就業後、制服から着替えていた俺に先輩がそう声を掛けてきた。

 俺はあまり他人とプライベートな話はしない。
 同僚である先輩も、今まで俺に対してあまりそのように話を振ってくることもなかったのだが。

「…もしかして、“恋”か?好きなやつでもできたか…?」

 先輩は少し楽しげに俺にそう尋ねる。

 …好き?
 俺はナツが“好き”だったのか?

「…“好き”って、何でしょうね…?」

 思わず俺は先輩にポツリとそう尋ねる。

 すると先輩は火でも点いたように声を弾ませて話し始めた。

「なんだ、自覚無しか??今どきはそんなもんなのか!?…そりゃ、ずっとそばにいたいとか、結婚して一緒に家庭を持ちたいとか…。昔で言やぁ、ずっとそばに置きたいとか、『自分のものにしたい』とか…今言うと相手によっては失礼にあたるけどな。まあ俺だって昔はなあ……」