「…。」

「…。」

 何も言い出せずに黙って立ち尽くす俺とナツ。

 しかし俺の怒りはまだ収まっていなかった。
 俺はようやくナツの手を強く引き、自分の家に向かって歩き出す。

「テイキさん…あの、どこに…」

「黙ってろ」

 すぐにナツは大人しく俺に引かれるがままついてきた。

 ナツに、今日こそ思い知らせてやる…


 俺の住むマンション。
 ナツはさすがに勘付いたらしい。

「…テイキさん…私…
「帰れると思うな。お前がさっき何をしたか、教えてやるよ…」

 俺は自分の家のドアを開けてナツを引き入れると、すぐさま鍵を掛けた。

「…バカだな、ナツ…アイツがただの知り合いだからって、安心してたのか…?」

 俺はドアにナツを押し付けて凄む。

「!!」

「そうか、アイツに期待してたのか…。こうやってどこかに連れ込まれて、こうやって壁に押し付けられて…自分はアイツの好きにされたかった、ってな…!!」

 ナツは震えたまま。

 閉じ込めてやる、このまま…!!

 俺がナツの上着に手を掛けようと肩に触れると、ナツは突然俺を見つめて叫んだ。

「い、嫌…!そんなの嫌!!テイキさん、ごめんなさい!!私、バカでした…!私…テイキさんじゃなきゃ…!!」

 俺はそれを聞いてそのまま固まり、ナツは泣きながら俺の背中に両手を回し、俺を抱き締めたまま震えている。

「ごめんなさい…テイキさん、忙しいと思って…。帰りが遅くなったけど、きっと私と帰る暇なんて…だから…」