君がくれた幸せ

 翌深夜。
 見世物小屋の主人はバラドを檻から引っ張り出し、彼を尋問しはじめる。

 しかし彼は何を聞かれても固く口を閉ざし、首一つ振らなかった。

「いい加減にしろバラド!!あの娘はうちの花形だ、お前はなんと言って騙した!?娘をどこへやった!あの馬車は何だ、どこへ行った!!…こうなればお前を拷問にかけてやる!!」


 彼は体中に縄をかけられ、地面に伏したまま顔に水を掛けられ続けた。

「っ…」

「さあ言え!…このまま寸分の隙間なく顔に水を掛けていけば、お前を溺れさせることだって出来るんだぞ…?」

 このまま死ねれば、きっと楽になれる。
 しかし、いま探され見つかってしまったら彼女はどうなるだろう?
 この様子では彼女も見つかれば無事では済まない。

 自分が死ねば、もう彼女を助けてやることも出来ないだろう。
 ならば今はただ、自分に『人並みの一時の幸せ』を与えてくれた彼女のために…