君がくれた幸せ

 主人が見世物小屋を別に移すまであと少し。
 バラドは彼女のためになんとか耐えるつもりだった。

「お前が騙した娘の居所の口を割るまで、許さんからな!!」

 彼は主人からどんなに脅しの言葉を受けようとも下を向き、じっと黙っていた。

 今は娘の身を案じるしかない。
 彼女も見つかれば何をされるか分からないのだから。

 若夫婦が無事に娘を医者に診せ、助かり、そのまま彼女が自分を探すことなく逃げ切ってさえくれれば…


 彼は主人に引き倒され地面に倒れ込んだ。

「っ!!」

「お前は一生うちの飼い殺しだ!餌もお預けで、しばらくなぶってやるからな!さあ今夜は檻に戻れ!」

 彼は手をきつく縛られ、雨に濡れた体のまま檻に戻された。


 彼はこんなことになろうと、あの娘を全く恨んでいなかった。

 彼女が自分を想って檻から逃したのは間違いない。
 一緒に逃げてほしいと言っていた理由はよく分からないが、彼女はただ自分とずっと一緒に居たかっただけなのだろう。

 思い出すのはあの、初めて話したときの彼女の純粋な笑顔。

(どんなにお前が願おうと、俺と一緒になることは出来ないだろう…。無事に生きてさえいてくれればいい…)