君がくれた幸せ

「…まだ歩けるか?すまないが馬車は君をのせてやれるほどの大きさではないんだ、ゆっくり行く。雨避けを貸そう」

 若い男が彼にそう言い傘を取りに馬車に戻ったとき、見世物小屋の主人がこの大降りの雨の中現れた。

「バラド…!!良くもあの娘を騙して逃げ出したな!!娘はどこだ!?」

 暗い中でも分かるほど目がギラついた、凄い怒りの形相の主人。

「逃げてくれ!!」

 彼の叫びを聞いて、馬車は彼女を乗せて走り去る。

 見世物小屋の主人は馬車を追いかけようとするが、この滝のような雨の中。
 足を取られてすぐに諦め、再びバラドのもとへ。

 残された彼はじっとその場に立ち尽くしており、主人にその巨体を瞬時に縄で縛り上げられ、雨でぬかるむ地面に倒れ込んだ。

「まんまと騙されたよバラド!お前は従順で大人しく檻に収まっていると信じていたのにな…!!」

「…。」

 主人の怒声にも彼は黙ったまま。

「まずはお前に仕置だ、無事で済むと思うな!!」

 彼はなんとか立ち上がり、娘とともに逃げてきた誰もいない夜の小道を、今度は主人に引きつられて戻っていった。