君がくれた幸せ

 それから何日も経った夜更け、彼は自分のすぐそばで聞こえる物音で目を覚ます。

 見てみれば、毎晩彼のもとに来ていたあの娘が彼のいる檻の鍵をこじ開けようとしているところだった。

「何をしている…!今すぐ離れろ、こんなところを誰かに見られでもしたら…!!」

 さすがの無口な彼でも声を潜めながらも慌てて声を荒げる。

「嫌!!これ以上あなたが辛い目に合うことが耐えられないの!私と一緒に逃げて、バラド!!」

 一体いきなり何だというのか。
 彼女の行動が理解出来ないが、自分とここを出ていきたいという意味だろうか?

「もうすぐよ、きっとあなたはあなたらしく生きられる。そのためにあなたの服もなんとかあつらえたんだから…!これならあなたも普通に暮らせるはず。服があなたに似合うと良いけれど…」

「…馬鹿者…!」

 こんな時にまで必死な表情のまま彼の心配を語る、ちぐはぐな娘に呆れていた彼。
 しかしいよいよ檻の入口が開けられた瞬間、彼はすぐさま彼女とそばにあった彼女の荷を瞬時に担ぎ上げ、一気に走り出した。

 見世物小屋の者同士にしろ、見世物を逃がしたとなればただでは済まないだろう。
 彼女に死を感じさせるほどの仕置など、受けさせたくはない。

「っ、あなたやっぱり、野獣の子なんかじゃないわ…!人間なのよ…!」

「黙っていろ、見つかれば何をされるか分からない…!」

 バラドは彼女を担いだまま、夜の闇に染まった森の中を川の中を、走って走って走り続けた。