君がくれた幸せ

 …きっとそう。
 あの自分の知っている彼女は別れ際、自分の“娘”に自分と同じ名前を、と言っていた。

 この屋敷の医者に診せられた彼女は、そのままその相手に見初められたのだろう。

 彼女にはきっと自身の運命が分かっていた。
 昔占った際にそばにいた少年の正体も、自分とは決して一緒になれないことも。
 そして別れた自分に向け、自身の幸せと元気で生きている証として娘に同じ名を付けたのだ。
 あのときの約束通り。

 彼女は誰にでも好かれる最高の、腕の良い占い師だったのだから…



 良く晴れたある日。
 バラドは何年かぶりにあのコリーンのあつらえてくれた服に袖を通し、メイドのコリーンと若主人とともに墓を訪れる。
 
(…幸せになれて良かったな、我が親愛なるコリーン…。俺も生きている、それもお前の望んでくれた通り“人間らしく”だ。お前のおかげだ、本当にありがとう…)

 彼女に手向けられた花は、彼の記憶にある彼女のように凛として咲いていた…