君がくれた幸せ

 そんなある日、屋敷に一人の若い娘がメイドとしてやってくる。

 偏屈な主人がいる屋敷といわれていたこの場所に、新たなメイドが来ることが驚きだった。
 しかもその彼女は自分の意志でだという。

「初めまして御主人様、そして皆さま。わたくしは御主人様のこのお屋敷専属の訪問主治医の娘、コリーンと申します。お屋敷に来るのは初めてですが、これからどうぞよろしく…」

 中年と呼ばれるほどの歳になったバラドには、この来たばかりの彼女にどこか見覚えがあった。

「…コリーン…?」

 …この名も、忘れるはずはない。
 自分に初めて人間らしい扱いで話し掛け、自身とともにいることを夢見てくれたあの彼女。
 自分と一緒では幸せになれないと、諦めたはずの彼女。

 スラッとした細身の体。
 凛とした眼差し、少しすました顔。
 見れば見るほどあの彼女に面影が似ている。

「母は先日亡くなりました。自身が華やかながらもひっそりと父を支え、わたくしを育て…どこか浮世離れした雰囲気の母でしたけれど…。変わり者の父ともども、これからはわたくしもこのお屋敷でお世話になります。よろしくお願いいたします」