君がくれた幸せ

 彼を乗せた馬車が着いたのは、街外れの立派な屋敷だった。

 彼はすぐに身を整えられ、その屋敷の用心棒として住み込みで雇われたのだった。

(俺はきっと、お前と生きることは出来ない。幸せでいてくれるなら、それで良い…)

 バラドの願い通り、彼女に彼のことは知らされていないという。
 そして彼も彼女のことは何も知らないまま月日は流れた。


 屋敷の夫婦は幼い一人息子を屋敷に置いたまま世界を飛び回り、ほとんど帰ってくることがなくなった。

「…ば、バラド…父さまと母さまがかえって来ないんだ…ぼくは……」

 彼は悲しみに暮れる屋敷の一人息子を見守り、自己流で身につけた護身術を毎日のように教えてやった。

 そして一度だけだったがあの占い師でもあった彼女が予言した通り、泣きじゃくる屋敷の一人息子を膝に乗せてあやしてやったのだった。

(お前との子供では無かったな…)


 そしてさらに何年も経ち、彼を雇った夫婦は不慮の事故で亡くなり、面倒を見ていた一人息子が屋敷の若主人になった。

 両親が亡くなってから屋敷外の者たちが自分たちを見捨てたことに絶望し、若主人は孤立したまま残った者たちのために自力で屋敷を立て直す。

 バラドはそんな中でも若主人の手助けをし、若主人の一番の理解者であり右腕となった。