前世の自分の記憶はとても朧げで、家族構成や顔すら曖昧な状態だった。

 そんなさなか存在感を示すように強烈に脳裏に浮かんだのが、とあるタイトルである。


『そして乙女は愛を知る』――略して乙愛。

 実直な執着×歪んだ執着をテーマに置いた恋愛小説の中で、私ことエリザは愛する人のためにヒロイン「クレア」と、ヒーロー「アイザック」の恋路を邪魔する悪女だった。

 そして、エリザの好意を利用し操っていた人物が、愛ゆえに歪んだ感情をクレアに抱く「シルヴァン・キンスト」であり、彼こそが私の婚約者なのである。