「タイミング、最悪……」

 独りごちた私は、ベッドの上で頭を抱えながら盛大なため息を吐いた。

 近くで紅茶を注ぐメイドの不安そうな視線を感じる。
 けれど、彼女に声をかける余裕はいまの私にはなく、またもやため息がこぼれ出た。

 指先に触れた包帯の感触。
 未だに続く鈍痛は、三日前の記憶を鮮明に思い起こしてくれる。

(これって、いわゆる……転生ってやつよね)

 膝に置いた手鏡を覗き込む。
 淡いダークブラウンの髪と、琥珀色の憂いを帯びた目。
 長い睫毛に白い肌、ほんのり色づく唇。美人ではあるけれどなんだか若干幸薄そうな自分の顔。

 私――エリザ・ティフェスは、父親をティフェス侯爵に持つ侯爵家の令嬢で、三日前に婚約式を終えたばかりだった。

 その帰り道に起こった馬車の事故。
 強い衝撃によって蘇ったのが、前世の重大な記憶である。

 エリザ・ティフェス。聞いたことがある名前。私の名前なのだから当然だけれど、それだけじゃない。

(いやこれ、どうすればいいの!?)

 実はこの名前、とある小説に出てくる死亡エンド確定の悪女キャラと同じものだった。