馬車の事故から一週間が経過して、なんとなく動けるようにもなった私は街散策に来ていた。

 西洋風のファンタジックな街並みは前世で暮らしていた場所とは全く違うけれど、見慣れていると感じるのは私がちゃんとエリザだからなんだろう。

 舗装された石畳の道を歩く。ライトブルーを基調としたドレスが風を受けるたび、裾がふわふわと揺れていた。

(シルヴァンが屋敷に来て一週間が経ったけれど、あれからなんの音沙汰もない。保留の意味を確かめたいのに、手紙も返ってこないし)

 歩き疲れた私は、街中にある人気のカフェで一休みしていた。
 同行者にはいつも私の身の回りのお世話をしてくれているメイドのサリーと、父親が雇ったという若い護衛騎士が一人。

 常に二人に見守られながら頂く紅茶は、フルーティーな味わいで気分をすっきりとさせてくれるのに、私の心中は穏やかじゃなかった。

(小説では描写があるからいいけど、本物のシルヴァンは何を考えているのかわからないのが怖い)

 もっとスムーズに婚約解消へ移れると思っていたのに、あの日シルヴァンは「保留」だと告げた。

(保留ってなによ、保留って!)

 一番はっきりしない対応に私は先日からもやもやしっぱなしである。