「……何も心配はいらない。君の傷ごと、君のすべてを愛すと誓うから。だから婚約解消なんて絶対にしないよ、エリザ」

 そう断言した彼は、美しい一挙一動を見せて私の手をとると、手袋越しに小さく口づけた。

 おかしい。彼から逃れるために奔走してきたはずが、むしろ逆効果になっていただなんて。

 呆然と口を閉ざしていると、彼はその煌めく赤い瞳を細めて微笑む。

「ねえ、エリザ。俺以上に、君が求めるスパダリは、そうそう居ないと思うけど」

 この世界にはいささか似つかわしくない「スパダリ」という単語を彼は慣れ親しんだように呟く。

(……なんだか、予定がだいぶ違ってしまったわ)

 あの時からこうなることが決まっていたかのように、彼の瞳には私だけが映り、一時も逸らそうとしなかった。