「ええ。大切な女性に喜んでもらえて、嬉しくない男はいないと思います」


 ブラントはサラリと、本当になんのけなしにそんなことを言ってのける。


(え? …………えぇ?)


 心のなかで疑問の声を上げつつ、ラルカはブラントをまじまじと見上げる。


 ラルカとブラントの仮初の婚約者で。
 それ以上でも以下でもなくて。


(大切な女性? わたくしが?)


 ブラントはまだ結婚をしたくないと言っていた。うるさい親族を黙らせたいのだと。

 そんな彼が、ラルカを大切な女性だと口にするだなんて――――。


(ブラントさまは、とても優しい人だから)


 だからこそ、仮初の婚約者にも救いの手を差し伸べてくれた。
 彼はきっと、一度己の懐に入れた人は皆、等しく大切にする人なのだろう。


(『大切』と『特別』は違うわよね)


 そう結論づけながら、ラルカはブラントに向かって微笑み返す。
 繋がれたままの手のひらが、何故だか無性に熱かった。