【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜

「それは良かった。折角のお休みを僕の願い事で潰してしまいましたから。ラルカに不自由な思いを――――負担をかけていないか心配していたので」

「そんなこと、思うはずがございませんわ!」

「……良かった」


 そう言ってブラントは、ラルカの手をギュッと握る。
 ラルカの心臓がトクンと跳ねた。


「あ、あの……ブラントさま?」


 出会ってからこれまで、一般的なエスコート――腕を添えて歩くことしかなかったものだから、唐突に手を繋がれて、ラルカは戸惑ってしまう。


「街ではこちらの方が歩きやすい――――と、思いませんか?」


 そんな風に口にしつつ、ブラントは若干バツの悪い表情を浮かべる。

 浮かないよう、はぐれないよう――――そんな表向きの理由が占めるのは一割程度。本当はブラントは、ラルカと手を繋ぎたいだけなのだから。


「そ、そうですわね」


 ドキドキと胸を高鳴らせつつ、ラルカが答える。


(きっと、これが普通なのですわよね?)


 仕事以外で、男性と出かけるのは初めてのこと。プライベートで出かける際にどうすれば良いのかなど、分かりはしない。
 おまけに、二人は一応婚約者同士なのだし、このぐらいの距離感で居るのが正解なのだろう。ラルカはそう自分に言い聞かせつつ、必死に平静を装う。