普段の倍以上の時間を掛けて身支度を終えたラルカは、約束の時間ピッタリにブラントの私室の扉をノックした。


「……はい」

「ラルカです。支度ができました」


 たった一言。それだけを伝えるために、心臓がドキドキと鳴り響く。
 扉越しにブラントが動く気配がし、ラルカはごくりと唾を飲む。


(どうしましょう? すごく緊張してしまうわ)


 もしもブラントに気に入ってもらえなかったら。
 ううん、それだけならまだ良い。
 もしかして、気合を入れ過ぎだと笑われないだろうか?


 侍女たちからどれほどお墨付きをもらえても、ラルカは自信を持てずにいる。
 こんなことは生まれてはじめてだった。
 いつだって彼女は誰かのきせかえ人形で、自分自身の容姿を好きだと思ったことも、誰かに気に入られたいと思ったこともなかったのだ。周りの評価など、どうでも良かったというのに――――。


「ラルカ、今日は――――」


 扉を開けたブラントが、思わずといった様子で息を呑む。
 彼は口元を手のひらで覆った。