「――――今度の休日、僕と街へ出掛けていただけませんか?」


 やがて彼は観念したように、ポツリと小声でそう囁いた。あまりにもささやかな願い事に、ラルカは思わず「へ?」と漏らす。


「街に? そんなことで良いのですか?」


 もっとずっと大掛かりなことを予定していたのだ。ラルカは完全に拍子抜けしてしまう。


「あの……遠慮をなさっているのではございませんか? もっと色々――――ほら、欲しかったものの一つや二つ、ございますでしょう? わたくし、何でもご用意いたしますわ。だって、ブラントさまに心から喜んでいただきたいんですもの」

「いいえ、ラルカ。僕は遠慮など全くしておりません! 目に見えるモノよりも、僕は貴女との時間がほしい。
ラルカと一緒に出掛けたい――――それが僕にとって、何よりのご褒美です!」


 ブラントの表情は真剣だった。熱っぽく見つめられ、手を握られ、ラルカはドギマギしてしまう。
 本当にそんなことで良いのだろうか? 半信半疑になりつつも、ラルカはそっと笑みを浮かべる。


「……では、今度の休日、一緒に出掛けましょうか?」


 言えばブラントは、本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。

 何故だろう。
 心臓がドキドキとうるさく感じる。
 握られた手のひらが、とても熱かった。