「いいえ、ブラントさま! 皆様、わたくしが早く休めるように、たくさん気遣ってくださいましたわ! 
安眠に効果的だというアロマや、美味しいハーブティーをご用意いただいて、本当に楽しく、心穏やかに過ごせましたもの」


 一昨日まで、仕事終わりと言えば、湯浴みや肌の手入れ、むくみを取るためのマッサージを何時間も掛けて施されるのが常だった。体勢の自由が効かず、読書をすることも、眠ることも許されない苦痛な時間。

 そんな中、久しぶりに一人きりで自由に過ごせる時間がたっぷり取れて、ラルカは心から嬉しく思っていた。


「それは良かった。ラルカが穏やかに過ごせたようで、ホッとしました」


 はにかむようにブラントが笑う。ラルカの心臓が小さく跳ねた。


「あの……ブラントさま。何か、わたくしにしてほしいことはございませんか? わたくし、貴方にお礼をしたいのです」


 尋ねつつ、ラルカはずいと身を乗り出す。

 結局、エルミラの助言通り、ブラント本人に欲しい物を尋ねることになってしまった。

 本当は秘密裏に準備を進め、驚かせたいし喜ばせたい。けれど、最高のプレゼントを、と思うと、どうあがいても時間がかかる。相手を深く知らなければ、本当に欲している物が何なのか、理解できないからだ。

 とはいえ、安直な手段に頼ってしまったことが少しばかり情けなくて、ラルカは僅かに頬を赤らめる。

 しかし、当のブラントは全く意に介していない様子で、そっと首を傾げた。