屋敷に戻ると、早速ラルカは使用人たちにリサーチをはじめた。

 ブラントの好きなもの、嫌いなもの。
 服や小物の好み。
 趣味や特技。
 休日の過ごし方など、ありとあらゆることを聞いて回る。


「お嬢様に『ブラントさまを知りたい』と思っていただけて本当に良かったです……!」


 使用人たちは瞳を輝かせて、手を取り合い喜んだ。

 ラルカには彼らがどうしてそんなにも喜ぶのか、いまいち理解できない。恩人にお礼をしたいと思うことも、そのために当人を知ろうとすることも当然だからだ。

 とはいえ、二人が仮初の婚約者だということは、使用人たちにも秘密だ。それとなく事情を誤魔化しながら、ラルカはそっと微笑んだ。


「わたくし、ブラントさまに贈り物をしたいのです。こんなにも良くしていただいて、本当に嬉しく思っていますもの。どうせ贈るならば、彼が心から喜んでくれるものが良いでしょう?」


 エルミラに助言を求めた時と同じように、ラルカは己の胸の丈を打ち明ける。そうした方が、より良い助言に繋がると思ったからだ。
 きっと具体的なアドバイスが得られるだろう――――そう思っていたのだが。


「まあ、お嬢様! ブラントさまはお嬢様が贈られるものならば、なんでも、心から喜ぶに違いありませんわ!」

「え……と、そうかしら?」

「そうですとも!」


 しかし、ここに来てエルミラの予言は完全に当たってしまった。
 使用人たちは「なんでも良い」と力説するばかり。有益な情報が一切得られずじまいだった。
 ラルカとしては予想外の展開に、少々面食らってしまう。


(何でも良い、が一番困るのよね……)


 せめて分野を絞ってくれればと思うのだが、誰も彼も、助言をしてくれる気は一切ないらしい。