それからラルカは、これまでの経緯を全て話した。
 メイシュのこと、ブラントのこと。彼女は静かに、ときに驚きながら、ラルカの話を聞いてくれた。


「そう……そんなことがあったの」


 ブラント以外にメイシュのことを打ち明けるのは初めてだ。エルミラがどんな風に感じるのかわからず、ラルカは少しだけ緊張してしまう。


「辛かったわね、ラルカ」


 労るようなエルミラの眼差し。ラルカは心を震わせる。


「価値観を押し付ける人はどこにでも居るけれど……それが身内となると厄介ね。貴女の姉は自分が絶対的に正しいと思っているようだし、とても頑固そうだわ」

「そう……そうなのです、エルミラさま! 本当に、姉はわたくしの考えをちっとも理解してくれなくて……」


 これまでと状況はさほど変わっていないはずなのに、話を聞いてくれる人がいる、同調してくれる人がいるというだけで、気持ちが驚くほどに上向く。

 おまけに、これまでは恐怖や悲しみで支配されていたというのに、メイシュに向けた怒りのような感情を抱けるまでになっている。ラルカは、己の変化に心から驚いた。


「だけど、良かった。婚約者をブラントに選んだのは正解だったわね」


 エルミラはそう言って穏やかに微笑む。
 ラルカの胸がトクンと跳ねた。