ブラントと時を同じくして、ラルカの方も、エルミラと対峙していた。


「この度はご心配をおかけして、本当に申し訳ございませんでした」


 ラルカが深々と頭を下げる。
 エルミラはふぅと息を吐いた。


「全く。本当に心配していたのよ? 力になろうにも、私の声は全然届かないし、すごく不安だったんだから」


 静かな執務室に、エルミラの声がポツリと吸い込まれていく。
 今は人払いをして二人きり。皆の前では話しづらかろうというエルミラの配慮だ。主人の優しさに感謝しつつ、ラルカはもう一度頭を下げた。


「ブラントさまからお聞きしました。エルミラさまがどれほどわたくしを心配してくださっていたか。心を砕いてくださっていたのか。
それなのに、わたくしは自分のことでいっぱいいっぱいで……ブラントさまにわたくしのことを伝えてくださって、ありがとうございます」

「別に、良いのよ。怒っているわけじゃないの。
私はただ、貴女に頼ってもらえなかったことが悲しかっただけ。だって、ラルカはいつも私を助けてくれるのに……友達だって思っているのは私だけなの?」


 エルミラはそう言って、躊躇いがちに視線を上げる。


「そりゃあ、私はこの国の姫で、貴女の主人かもしれないわ。だけど、もう三年も隣に居て、同じ理想を追いかけてきたのよ? 安心して背中を預けられる相棒の力になりたいって思うのは当然でしょう?」

「エルミラさま……!」


 ラルカの目頭がぐっと熱くなる。エルミラは照れくさそうに――――そして、困ったように微笑んだ。


「そういう訳だから。今度からは一人で抱え込まず、きちんと私を頼りなさい。約束よ?」


 今度こそ――――差し伸べられた手のひらをラルカが握る。二人ははにかむように笑いあった。