【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜

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 翌日、エルミラに事情を話すと、彼女は目を丸くして驚いた。


「ラルカを侍女に戻す? そんなこと、できっこないわ! そりゃあ、侍女だって当然、とても大切な仕事よ。だけど、貴女が居ないと公務が滞ってしまうもの」


 プンプンと唇を尖らせつつ、エルミラが勢いよく捲し立てる。
 ラルカが担当しているのは主に、エルミラのスケジュールや予算の管理、公務への随行、他部署との調整、彼女の名前で発行する文書の作成だ。内容が多岐に渡る上、量も多く、また最近ではラルカが調整役をしてくれるからこそ入れられる公務もあったので、エルミラにとっては死活問題である。


「しかし、姉はとても頑固でして。わたくしが侍女に戻らなければ、城に乗り込んできかねない人なのです」


 ラルカや他の大勢にとっては恥ずべき行動も、メイシュにとっては違う。

 彼女にとっては、自分の正義を守ることが全て。
 その正義とは、ラルカを己の意のままに操ることに他ならない。

 元はと言えば、こうして城で勤めることになったのも、メイシュにそう命じられたからだ。
 王女の侍女を務めれば箔が付く。貴族女性にとって、もっともステイタスの高い謂わば花形の職種で、愛らしいラルカにピッタリだと言われた。

 今となっては、領地から――――メイシュから離れることができた上、それまで知らなかった自分の能力を知ることができて、ラルカとしては感謝すらしていたのだが。