「公言しないでくださいよ? もちろん、エルミラ殿下に対しても」

「分かってるよ。
しかし、よく先方が許可したな。お前、ラルカ嬢を半ば無理やり自分の屋敷に連れて行ったんだろう? 文句の一つも出そうなもんだが」

「ですから、そちらの根回しをするために今夜は遅くなるのですよ」


 言いながら、ブラントは紅茶を飲む。ついついため息が漏れ出た。


「ん? 昨日はなんと伝えたんだ?」

「ラルカが城で体調を崩したので、家に連れて帰ると。あちらの使用人たちも思うところがあったのでしょう。『それならば』と、素直に言うことを聞いてくれました」


 ここ最近のラルカは、誰の目にも分かるほど憔悴していた。使用人たちも、なんとかしてやりたくて、けれどどうにもできなくて、ヤキモキしていたのだろう。


「しかし、一日ならば誤魔化しも効きますが、ずっととなると難しい。体調不良が理由では、自宅で静養するように、という話になりますし、退職を強要されたり、領地へ帰るように言われかねませんから。
とはいえ、当の元凶は遠く離れた領地にいる。使用人たちの説得にはそこまで難儀しないと思います。まあ、上手くやりますよ」