「――――黙秘します」


 殆ど表情を変えぬまま、ブラントが己の駒を動かす。
 アミルはクスクスと笑いながら、次の駒を進めた。


「だろうな。
ならば、お前は彼女の望みを知っていて、自ら仮初の婚約者として名乗りを上げた――――というところだろう? 全く、お前の考えそうなことだ」

「――――――黙秘いたします!」


 アミルは昔から勘が良い。隠し事をしたところで無意味だと分かっているが、ハッキリと『はい、そうです』と認めてしまうわけにはいかないのである。


「やはりな。こんなにすぐに話がまとまるなんて、おかしいと思ったんだ。
エルミラの話だけで判断すれば、ラルカ嬢は独身主義者だ。少なくとも、今はまだ結婚を望んでいないだろう……婚約自体を躊躇うタイプだと俺は思う。
だが、彼女の考えを知った上で仮初の婚約を結んでくれるという男がいるなら話は別だ。周りへのカモフラージュのためにも、ラルカ嬢は婚約話を飲むだろう。
これがお前とラルカ嬢との婚約が実現した経緯だ」


 アミルの仮説は完璧だった。ブラントは押し黙ったまま、チェス盤を見つめる。まだ序盤だと言うのに、勝てる気が全くしない。彼は小さく息を吐いた。