執務室に着くと、ブラントはアミルとともにソファに腰掛けた。
 二人の前にはチェス盤とティーカップが置かれ、いつものように、アミルが徐に駒へと触れる。


「それで? ラルカ嬢はお前との婚約が嫌で落ち込んでいたわけではなかったのか?」


 昨日、エルミラがラルカのことを頼むためにやってきた時、アミルもその場に居た。このため、彼は『ラルカ=マリッジブルー』という仮説を立てている。


「当然です。昨日も申し上げたとおり、彼女は僕との婚約を心から望んでくれていますから」


 ブラントは何食わぬ表情で言いながら、心の中で舌を出す。

 ラルカがブラントとの婚約を望んでいるのは紛れもない事実だ。嘘は一つもついていない。理由はどうあれ、アミルの質問に対しては正しい回答だ。


「ふむ。では、聞き方を変えよう。
彼女は婚約は望めども、結婚は望んでいないのではないか?」


 コツンという音とともに、盤に駒が置かれた。アミルは頬杖を付き、ニヤリと瞳を細める。