エルミラによく似た麗しの王太子は、御年十八歳。明朗快活、己の能力と魅力に確固たる自信を持つ御仁だが、茶目っ気もあり、ちょっとやそっとのことで気分を害することはない。
 反面、アミルは予定外の行動が多く、供も連れずにしょっちゅうあちこち出歩いてしまう。スケジュール調整や護衛の観点から、側近たちは大いに苦労しているのだ。
 こういう場面において、己の名前を貸すぐらいの大らかさは持っていて然るべきだろうとブラントは思う。


「まぁな。三年間も片思いをしていた女性と婚約が叶って、ついつい浮かれてしまう気持ちはよく分かる。わざわざ同じ馬車で出勤して見せびらかしたくなるのも――――」

「ちょっ! 殿下、この場でそういうことを仰るのは……」


 二人が居るのはエルミラの執務室のすぐ近く。誰が聞いているのかもわからない。下手すればラルカに聞こえてしまうかもしれないのだ。


「ん? 何か差し障りがあったか? 俺としてはあの時、変に嘘を用いず、こういう方便を用いても良かったと思うのだが――――」

「殿下の仰る通りです! 僕が悪うございました! ひとまずこの場を離れませんか?」

「分かれば良いんだ」


 実にカラッとした笑みを浮かべつつ、アミルはブラントの肩をポンと叩く。己の名前を勝手に用いられたというのに、寧ろ上機嫌な様子だ。


(これは……長引きそうだなぁ)


 執務室に帰ったら、洗いざらい事情を吐かされる羽目になるのだろう。
 ブラントはため息を吐きつつ、アミルのあとへと続いた。