馬車に揺られ数分、ラルカ達は勤務先である城へと辿り着く。
 まだ早朝だが、騎士や文官らが幾人も行き交う、平和でありきたりな風景。

 けれど、車輌から降り立った二人を見て、彼等は目を丸くした。


「嘘だろう? ラルカ嬢がブラントと一緒に出勤⁉」

「婚約の噂は本当だったのか⁉」

「そんな! ソルディレンさまがっ」


 王女エルミラの側近であるラルカと、王太子アミルの近衛騎士であるブラント。おまけに、二人揃って超のつく美形。当然ながら、皆の関心は高い。

 驚くもの、悲しむもの、嘆くもの、単に噂話を楽しむもの。
 大声こそ上げないものの、皆ヒソヒソと囁きあっている。


「あら? 皆様何だか様子が変ですわね。一体どうしたのでしょう?」


 普段、噂話に関わることの少ないラルカは、彼等がどうして色めき立っているのか、その理由がわからない。自分が話題の中心になることすら、想像したこともないのである。


「さあ。なにか良いことがあったんじゃないでしょうか?」

 ブラントは素知らぬ顔をしながら、首を傾げる。
 理由を熟知しながら、実に白々しいことだ。


(仕方ないだろう?)


 この二年間、どれほどこの時を待ち望んでいたかわからない。
 隣を歩くラルカをエスコートしつつ、ブラントは一人感慨にふける。