ラプルペ家の当主はラルカとメイシュの父親だ。
 けれどその実権は、娘であるメイシュに移りつつある。母親が姉妹のまだ幼い頃に亡くなったため、長らく女主人の役割を担ってきた影響だ。
 婿養子を取り、いずれはメイシュの夫が爵位を継ぐ予定だが、妻であるメイシュが強すぎて、年々影が薄くなっている。
 今頃領地にある本邸は、メイシュの外出により、大いに羽根を伸ばしていることだろう。



「それで姉さま。今回はどうして王都に?」


 事前に来訪の連絡はなかったし、今は社交シーズンでもない。領地経営のためならばメイシュの夫や二人の父親も一緒のはずだし、単身王都に乗り込む理由は見当たらない。


「今は内緒。しばらくは滞在するからね」


 メイシュの唇が弧を描く。


(そんな!)


 精々、一日か二日大人しくして、姉の目を誤魔化せば良いと思っていたのに、ラルカのあては完全に外れてしまった。
 勝手に引き払われた寮の部屋のことも、エルミラの文官としての仕事も、メイシュが王都に居るのではどうすることもできない。
 ラルカは密かに目を瞠った。


「しばらくとは……一体どのぐらいですの?」

「しばらくはしばらくよ。目的が達成されるまで帰る気はないわ」


 メイシュは意味深な笑みを浮かべつつ、これ以上情報を出す気はないらしい。「承知しました」と口にして、ラルカは静かに頭を垂れた。