「大丈夫ですよ。エルミラ殿下は呆れてなど居ません。ただただ、貴女を心配していただけですから」


 ブラントの言葉は力強い。
 なおも浮かない顔をしたラルカの手を、ブラントはそっと握った。


「ラルカ。貴女がお慕いするエルミラ殿下は、心の狭い方でしょうか?」

「……!」


 ラルカがぶんぶんと首を横に振る。


「いいえ、ブラントさま。そんなことはございません! エルミラさまはとても慈悲深く、お優しい方ですわ」


 エルミラは、簡単に人を見限ったりしない――――ラルカにはそう断言できる。

 人はとかく、自分のことになると、急に視野が狭くなるもの。ブラントの言葉で、ラルカは目が覚めたような心地がした。


「そうでしょう? さあ、殿下に早く元気になった貴女の姿を見せてあげましょう」

「ええ」


 ブラントに手を引かれ、ラルカは意気揚々と席を立つ。
 仲睦まじい二人の様子を、屋敷の使用人たちが嬉しそうに見守っていた。