カーテンから漏れ入る柔らかな光の中、ラルカは目を覚ました。
 天井が高く、視界が広く開けている。天蓋やメルヘンチックなフリルのカーテンがないせいだ。

 思わず口の端に笑みを浮かべつつ、ラルカは大きく伸びをする。気持ちが良い。実に清々しい気分だ。

 洗面を済ませ、一人鏡台の前に腰掛ける。
 白粉に頬紅、口紅を薄く塗ったら化粧はそれで終わり。
 髪の毛は上の方だけを緩く束ねて、あとはそのまま。巻いたり結い上げる必要などない。


(あぁ……なんて楽ちんなの!)


 ラルカは鏡台の前で一人、感涙を流す。

 実家では毎日二時間以上を掛けて、化粧や着替えといった身支度をさせられていたが、今日掛かった時間はほんの二十分程度。侍女のふりをする必要がない分、たっぷりと眠れたし、薄化粧の影響で肌が喜んでいる気がする。


 何より、ここにはラルカを縛るものは誰も居ない。


 化粧も着替えも自分でしたいと伝えたら、侍女たちは微笑みながら受け入れてくれたし、どこに行くにも、何をするにも監視がついていた実家とは大違いだ。


 その上、ブラントは生活に必要なありとあらゆるものを準備してくれた。
 ラインナップは化粧品にドレス、髪飾りや宝飾品、雑貨や小物まで細部に渡る。

 しかも、そのどれもが、ラルカ好みだから驚きだった。

 メイシュがファンシーで明るく、華やかなものを好む反動だろうか。ラルカはシンプルで落ち着いた色合いのもの、大人っぽいものを好む傾向がある。


 ブラントが用意してくれた化粧品は、外側――――容器への装飾は最低限に留めてあるものの、発色が良く、よくのびる良質なものばかりだし、ドレスは老舗ブランドの高級品だ。袖を通すだけでピンと背筋が伸びるような――――自立した大人の女性を思わせるデザイン。鏡を見ながら、ラルカは思わず笑みを浮かべる。