(どうしましょう……)


 自宅から――――メイシュから引き離してくれただけでも十分すぎるほど嬉しかった。涙が出るほど幸せだった。

 けれど、ブラントが用意してくれた環境は、本当に完璧。いたれりつくせりだ。

 ラルカ好みの部屋に調度類、優しそうな侍女たち。
 しかも、決して押し付けがましくなく、ラルカの好きにして良いという。


 ふと見れば、テーブルの上には湯気の立つティーポットと茶葉が置かれていた。

 ラルカはソファに腰掛け、お茶を淹れる。涙を流しすぎたせいで、喉がカラカラだ。


 他にも、鏡台には化粧を落とすための道具が、ベッドの上にはシンプルで着心地の良さそうなドレスが置かれている。


(本当に、ブラントさまにはどれだけ感謝してもしきれないわ)


 さりげない気遣いの数々。ラルカはほんのりと涙を滲ませる。

 今すぐとはいかないが、いつか、何かしらの形で彼に恩を返さなければ――――そんな風に思いながら、ラルカはそっと夜空を見上げる。その瞬間、星が瞬き、一筋流れた。

 こんな風に穏やかな気持になれるのは、どれぐらいぶりだろう。空を見上げる余裕など、ここ最近のラルカには全くなかった。


(よし!)


 ペチペチと頬を叩き、ラルカは気合を入れ直す。
 立ち上がり、大きく息を吸い込めば、これまで見えていなかったもの、これからすべきことがハッキリ見えてくる。


(頑張ろう)


 ぐっと伸びをしながら、ラルカは笑みを浮かべるのだった。