「もちろん。ここはもう、貴女の部屋ですから。
ラルカがゆっくりと寛げる場所であること、安らげる場所であることが何より大事です。
足りないものがあったら、何でもおっしゃってください。僕が何でもご用意いたします」

「そんな……だけど、嬉しいです。本当にありがとうございます」


 ブラントの気持ちがあまりにも嬉しい。ラルカは満面の笑みを浮かべる。


「とても急なことでしたのに、こんなにも完璧なお部屋をご用意いただけるなんて、感激ですわ!」


 客室の一つを整えたにしても、あまりにも完璧すぎる。さすがは侯爵家、といったところだろうか。
 ブラントはウッと言葉を詰まらせつつ、誤魔化すように笑みを浮かべる。


「それから、ラルカに専用の侍女を用意させていただきました」


 彼が言えば、三人の侍女がしずしずと室内に入ってくる。皆、ラルカの両親よりも年上の、控えめで優しそうな女性ばかりだ。
 ほのかに香る石鹸の香り。ラルカの視線に気づくと、彼女たちは穏やかに目を細める。


(うちの侍女とは随分違うのね……)


 実家でラルカに付けられた侍女たちは、完全に美貌重視。メイシュの厳しい審査をくぐり抜けた若い女性ばかりで、化粧や香水の匂いが強く、一緒に居ても落ち着かない。

 話題も、流行りのドレスや宝飾品、化粧品のことだけ。美意識が驚くほどに高い。美容に興味のないラルカとは話が全く合わないのだ。

 ラルカを飾り立てるために用意されていると分かっているし、優しくはあるのだが、完全に心を開くことなどできなかった。