タウンハウスに戻ると、たくさんの使用人たちがラルカのことを取り囲んだ。

 フリルがふんだんにあしらわれた桃色のドレスに、彼女の瞳と同じ色をした大きなエメラルドのネックレス。化粧をしっかりと施され、髪を綺麗に結い上げる。小さな宝石がたくさん埋め込まれたカチューシャを付け、爪を染め、ピカピカのヒールに履き替え、文字通り、てっぺんからつま先まで磨き上げる。

 その様子を、メイシュは至極満足そうな表情で眺めていた。


「素敵よ、ラルカ! とても愛らしいわ。思った通り、すごくよく似合っている! ラルカのために、わざわざ作ってもらったのよ」


 手をたたきながら上機嫌で微笑むメイシュに、ラルカはそっと唇を尖らせる。

 侍女としてエルミラに仕えるまでは、これが貴族の当たり前の姿だと思っていた。けれど、今なら違うと断言できる。
 ラルカはそっと身を乗り出した。


「夜会でもないのにこんな盛装、エルミラ殿下ですらなさいませんわ。わたくし、もっとシンプルなドレスの方が――――」

「ダメよ」


 メイシュが言う。その瞳は彼女の意思が揺るがないことを如実に物語っており、ラルカを瞬時に怯ませた。


「だって、こっちの方が絶対に可愛いもの。可愛いものは可愛い格好をしてこそ! 適当な格好をしてはダメ。女官の制服なんて論外だわ。
貴方達も肝に銘じておきなさい」


 そう言ってメイシュは、傍に控えている侍女や侍従たちを睨みつける。彼等は内心竦み上がりつつ、「はい!」と揃って声を上げた。