まるで、ラルカの苦悩が流れ込んでくるよう。ブラントは苦しげに顔を歪める。
 ラルカがこんなにも苦しんでいたことを何も知らずにいたことが、酷く歯がゆかった。


「ラルカ」


 どんな言葉も、今のラルカには届かないような気がしてくる。ブラントはラルカを抱きしめながら、宥めるように背を撫でる。


「ラルカ」


 ブラントが何度も名前を呼ぶ。
 冷え切った心と体を、ブラントが温めてくれる。

 たったそれだけのことだが、ラルカは自分が血の通った人間なのだと感じることができた。


「うぅ……」


 声を押し殺して泣くラルカに、ブラントは優しく微笑む。


「堪えないで。心のままに泣き叫んで良いんです。ここには貴女を苦しめる人間は誰も居ません。僕しか聞いていませんから」


 その瞬間、何かが――――ラルカを縛る糸がプツリと切れた。

 ラルカは己を抱きしめつつ、幼い子供のように声を上げる。ブラントはそんなラルカのことを、静かに抱きしめ続けるのだった。