「ラルカ嬢が結婚⁉」

「お相手は誰なの⁉」

「まだ結婚に興味なさそうだと安心していたのに!」


 同僚たちが騒ぐ中、エルミラがラルカの肩を抱く。ラルカはおずおずと顔を上げた。


「……ご存知だったのですね」

「当たり前じゃない。私を誰だと思っているの?」


 ふん、と鼻を鳴らし、得意げに頬を染めるエルミラに、ラルカは深々と頭を下げる。


「ご報告が遅くなって、申し訳ございません」

「別に、謝ることじゃないわ。貴女が私に黙っていた理由だって何となく分かるもの。仕事を辞めたくないと思ってくれているのでしょう?」

「エルミラさま……」


 当たらずとも遠からず。結婚のために仕事を辞めたくない――――それは、ブラントと出会うまでの間、ラルカの頭を悩ませていた内容だ。
 けれど、本当のことを話すのは憚られる。ラルカは頭を下げ続ける。


「良い、ラルカ? 私は、一人で悩むぐらいなら相談してほしいと思っているの。だって貴女は、私の大切な女官だもの。誰よりも頼りにしているもの。まだまだ手放す気はなくってよ?」


 エルミラが微笑む。

 そのままのラルカをエルミラが必要としてくれている。

 けれど、そんな言葉すら、今のラルカには届かない。

 メイシュの操る糸がラルカを絡め取り、思考を、感情を少しずつ奪っていく。

 瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。


(誰か、助けて)


 ラルカは声にならない叫びを上げる。エルミラが差し伸べた救いの手に気づかぬまま。