「申し訳ございません」


 こんな自分が、エルミラにお仕えしても良いのだろうか?

 これまでは、こんなネガティブなことを考えることはなかった。
 誰かに尋ねられたとしても、『否』と即答できただろう。

 けれど、今のラルカにはそれができない。
 自分に全く自信が持てなかった。


(わたくしは、エルミラさまのために何もできない)


 俯き、涙が溢れるのを必死で堪える。エルミラは首を傾げつつ、ラルカのことをじっと見つめた。


「――――もしかして、マリッジブルーかしら? 環境が変わると、ナーバスになるっていうものね」

「……え?」



 どうして結婚のことを?
 ――――そう尋ねようとしたその時、その場に居た侍女や文官、近衛騎士までもが勢いよく身を乗り出した。


「マリッジブルー⁉ 誰が⁉」


 皆、あまりにも興奮していて、主君に対する礼儀を失している。けれど、エルミラは気にしていないようで、至極穏やかに首を傾げた。


「誰がって、当然ラルカよ」


 エルミラが言う。皆一様に目を丸くした。