「聞けばラルカの強い希望だったとか。
……ダメじゃない? 貴女は侍女として、殿下のお傍にお仕えすべき女性なのよ? 殿下の周りを華やげ、株を上げるのが仕事なの。それなのに、文官? そんなもの、男にさせておけば良いのよ」


 政治や行政は男のもの――――この国にも、そういう考え方が根強く存在する。女性の文官は一握りしかおらず、過去に大臣等に登用されたものは居ない。
 女性は侍女として王族や公務を裏から支えるか、妻として夫の仕事を社交で支える。
 男には男の、女には女の領分がある――――それがメイシュの考えだ。

 そもそも、働くことを推奨されていない世の中だ。貴族というのは、労働を下々の者に任せ、日がなのんびり優雅に過ごすもの。女性ならば尚更だ。


「だけど姉さま、わたくしは文官として働くことが楽しいのです。それに、エルミラ殿下はわたくしのことを『助かっている』『頼りにしている』と言ってくださって……」

「だとして、それが何になると言うの? 誰にも見えないところで、陰で働くことに、何の意味が? そもそも、貴女を侍女にと推薦したのは私なの。勝手なことをしないで頂戴。
貴女はただ、蝶よ花よと愛でられていればそれでいいのよ」


 最早、返す言葉が見つからず、ラルカは俯いてしまう。


「明日になったら、きちんとエルミラ殿下にお伝えをして、侍女に戻してもらいなさい。この部屋も、退去すると伝えておいたから。さあ、家に帰るわよ」


 至極柔らかな笑みを浮かべ、メイシュがラルカの頭を撫でる。


「はい……姉さま」


 ラルカは返事をしながら、心のなかで深々と息を吐いた。