(お化粧なんて、しなくて良いのに)


 感情を押し殺し、時間が過ぎるのをひたすら待つ。
 甘ったるい化粧品の匂いが、以前よりもずっと嫌いだと思った。
 嫌だと伝えることすら面倒で、やがてラルカは何も言わなくなってしまう。


 貴族の令嬢である以上、ある程度の制約は当然だ。ラルカとて、そんなことはわかっている。

 けれど、彼女が置かれた状況は、とても普通の令嬢のそれではなかった。
 監獄ぐらしの方がマシではないかと思えるほど、あらゆる行動を強制、制限されている。
 自分という人間すべてを否定され、少しずつ 少しずつ消去されていくかのような感覚。

 メイシュは既に居ないのに、ラルカはこれまでよりも雁字搦めにされたような気がしていた。


 そんな中でも、仕事を続けさせてもらえたことは、本当に奇跡に近かった。



「どうしたの、ラルカ? 最近元気がないじゃない?」


 エルミラが尋ねる。


「そ、れは……そんなことは…………」


 ないとは言えない。
 ラルカは軽く目を瞠り、それから頬を真っ赤に染めた。


(わたくしは、一体何をしているのでしょう?)


 職場は今のラルカにとって、唯一自分らしく居られる場所。
 そんな大切な場所で、エルミラの信頼を失うような真似をした自分が恥ずかしくて、それから情けなくてたまらない。