メイシュの根回しは完璧だった。
 屋敷の使用人たちも、寮母やその住人たちに至るまで、誰もラルカの味方にはなってくれない。
 『もう一度寮で生活したい』『一晩泊めてほしい』と頼み込んでもダメだった。絶対に無理だと突き放されてしまう。


(なんで? わたくしはただ、自由に――――自分らしく生活したいだけなのに)


 ささやかな筈の願いは、けれど決して叶うことはない。


「申し訳ございません、お嬢様。メイシュさまに固く言いつけられていますから」


 侍女たちはそう言って、嫌がるラルカを着せ替える。

 太陽も昇らぬうちから湯浴みをさせ、顔を塗りたくり、何枚ものドレスに身を包む。
 これから仕事で、城に着いたらどうせ制服に着替えるのだ。この屋敷以外の誰も見ないというのに、なんとも無意味なことだとラルカは思う。


「……ここにはもう、姉さまは居ないわ。貴方たちが黙っていてくれたらバレやしない。もうこんなことは止めましょう? 朝からこんなことに労力を使うなんて馬鹿げているわ。
第一、ドレスなんてどれを着ても同じじゃない。化粧だって、こんな濃いのは好みじゃないし」


 一度はラルカの意思を尊重し、寮住まいを応援してくれた使用人たちも、皆揃って首を横に振る。彼等の表情には、はっきりと恐怖心が浮かび上がっていた。おそらく、メイシュに相当絞られたのだろう。ラルカは深いため息を吐く。


「さあ、お嬢様。今日のお化粧はオレンジの色合いを試しましょうね?」


 少しでもラルカのテンションが上がるよう、使用人たちは無理やり笑顔を浮かべる。
 けれど、ラルカの表情が晴れることはなかった。