「あら、それは良かった。
ねぇ、ラルカ。『きちんと』っていうのはつまり、私が領地に帰ったあとも、私の望み通りの生活をしてくれるってことよね?」

「ええ、もちろん」


 そんなつもりはないわ――――心のなかで囁きつつ、ラルカはそっと首を傾げる。


「実はね、私がいなくなったら貴女がまた、劣悪な寮生活に戻ってしまうんじゃないかって心配していたの」


 メイシュが言う。ラルカの背筋に緊張が走った。


(まずい)


 動揺を悟られたら、メイシュの滞在が長引いてしまう。
 ラルカはきりりと表情を引き締めた。


「そんな、まさか。侍女も侍従も、こんなに良くしてくれているのに。寮に戻りたいだなんて、思うはずがありませんわ」

「でしょう? そうでしょう? だからね、貴女が絶対に寮には戻れないように、きちんと根回しをしておいたのよ?」

「…………え?」


 困惑顔のラルカを前に、メイシュがゆっくりと目を細める。


(なに、それ?)


 まさか。
 そんなこと、できるはずがない。
 そう思いつつ、ラルカの額に汗が滲む。


「大変だったわぁ。私ね、色んな人に『お願い』をしてまわったの。貴女がもしも寮に戻りたがっても、絶対に食い止めるようにって」


 ドクン、ドクンと心臓が鳴る。
 ラルカはメイシュを呆然と見つめた。


「王都に着いて、ここに貴女が住んでいないって知ったときはショックだったわぁ。裏切られた気持ちで一杯だった。あんな想いはもう沢山。
安心して? 皆、しっかりと約束してくれたわ。
絶対に貴女を、あんな生活に戻しはしない。だって貴女は、私の可愛いラルカだもの」


 メイシュが微笑む。ラルカはゴクリとつばを飲んだ。


「一体……いくら渡したのですか? わたくしをこの屋敷に閉じ込めるために、どれだけのお金を……」

「そんなの、貴女が知る必要のないことよ」


 ピシャリとそう言い放たれ、ラルカは絶望した。