二人の婚約から二日後、メイシュが領地へ帰ることになった。


「姉さま、忘れ物はない?」

「大丈夫よ。ちゃんと確認したわ。
ラルカったら、心配性ねぇ。んもう、可愛んだから!」


 メイシュはそう言って、ラルカに抱きつく。

 けれど、ラルカが心配しているのはメイシュのことではない。完全に保身のためだ。


(絶対に戻ってきちゃダメよ、姉さま)


 早く出発してほしい――――そう心から願いつつ、ラルカは必死に本音を隠す。心とは裏腹に、ニコニコと笑顔を浮かべ続けた。


「良い、貴方たち? 私がいなくなってからも、ラルカのことをきちんと世話するのよ。少しでも手を抜いたら許さないんだから」

「はい、メイシュ様」


 使用人たちが一斉に頭を下げる。皆一様に緊張しているのがわかった。


「そんな、姉さま。わたくしももう大人です。婚約だってしたのですから、姉さまがお帰りになったあとも大丈夫。きちんと生活いたしますわ」


 ラルカはそう言ってニコリと微笑む。

 そもそも、姉が領地に戻ったらすぐに、ラルカは寮に移り住む予定だ。使用人たちには口裏を合わせてもらうつもりでいるのだから、念押しなんてしないでほしい。
 というか、今後はラルカのことなど一切気にしないでほしいのだが。