メイシュはラルカとブラントの婚約を見届けたあと、一人で屋敷に帰っていった。二人で交流を深めろ、ということらしい。
 ラルカ自身、メイシュとできる限り離れていたいので、今回ばかりは姉の指示に心から感謝した。


(良かった……!)


 ラルカは大きくため息を吐き、ふかふかのソファに身体を預ける。無事に婚約へと漕ぎ着けたことが、あまりにも嬉しかった。


「噂に違わぬ、パワフルなお姉さまですね」


 ブラントがくすりと笑う。
 彼の表情は温かく、とても優しいが、ラルカは申し訳無さでいっぱいで、頬を真っ赤に染めあげた。


「申し訳ございません。あんな……不躾に色々と申し上げて。姉の失礼な態度に、気分を害されたのではございませんか?」

「とんでもない。妹思いの良いお姉さんだと思いましたよ。ラルカはとても愛されているのですね」


 ブラントはそう言って、ラルカの額をそっと撫でる。


(妹思い……)


 やはり、第三者からはそんな風に見えるのか――――ラルカはほんのりと表情を曇らせる。

 妹に良い縁談をと望むことは、謂わば普通の感覚だ。表面だけを見れば、とても良い姉なのだろう。
 ただ、そこにラルカの意思は全く反映されておらず、拒否権もないと言うだけで。