***


「一体どういうことなの?」


 けれどその日、仕事を終えて寮に帰ったラルカは、一気に笑みを曇らせることになる。

 王都から遠く離れた領地に暮らしている姉、メイシュがラルカのことを待っていたからだ。


「どうしてこんな――――寮なんかに住んでいるの? 貴女には立派な『家』があるでしょう?」


 メイシュはラルカの頬を持ち上げ、そっと瞳を覗き込む。


「それは、その……こちらの方が城に近くて、便利が良いものですから」

「便利が良いわけ無いでしょう? 侍女も侍従もつけないなんて! 私が貴女のことをどれだけ心配していたか! それなのに、家のものに口止めまでするなんて!」


 ラルカは息を呑み、姉から僅かに視線を逸らす。


「けれどわたくし、身の回りのことは自分でできますわ。エルミラ殿下の侍女を務める人間ですもの。そのぐらいできて当然です。姉さまにご心配いただくことなんて、何も――――」

「そうそう。私、そのことも話したかったの。
貴女、私に相談もなく、侍女から文官に転属したんですってね?」


 メイシュはそう言って、美しい顔を苦痛に歪める。ラルカは大きく目を見開いた。


「それは……その…………」

(なんて言ったら姉さまは納得してくれるの?)


 必死に考えを巡らせるものの、名案がちっとも浮かんでこない。どのように答えても、メイシュに論破される未来しか想像できないからだ。

 ラルカは視線を泳がせつつ、じりじりと後ずさる。少しでも良い。姉から距離を取りたかった。
 だが、狭い寮の部屋。すぐに壁際に追い込まれてしまう。

 メイシュはやがて、ふわりと穏やかに微笑んだ。