ラルカとブラントは馬車に揺られていた。どちらともなく手をつなぎ、二人は穏やかに微笑み合っている。


「自然豊かないいところですね」


 目の前に広がる美しいネモフィラの花畑を見つめながら、ブラントが感嘆のため息をもらす。ラルカはそっと目を細めた。


「ありがとうございます。ブラントさまにそう言っていただけてとても嬉しいです」


 ギュッとつなぎ直される手のひら。ブラントの胸がトクンと高鳴った。


「……実は、こうして領地に帰ってくるのは仕事をはじめて以来初で、少しだけ緊張しているんです」

「そうだったのですか?」


 ブラントがほんのりと目を見開く。ラルカはコクリとうなずいた。


「ええ。仕事が忙しくてまとまった休暇が取れない、という事情もありましたが……なにより姉さまがあんな感じだったでしょう? とにかく絶対に会いたくなくて、領地を避けていたのです」


 困ったように笑いながら、ラルカは窓の外を見つめる。