「ありがとうございます、騎士様。ただ、非常に申し上げにくいのですが……一つだけ懸念事項がございまして」

「……? 何でしょう?」

「そのぅ……姉はとても理想が高く、わたくしの結婚相手に、ある程度の爵位や家柄、資産を求めておりますの。わたくし、失礼ながら貴方様のお名前も存じ上げないもので」


 姉が反対するのでは――――消え入りそうな声で、ラルカはそう付け加える。

 見た目について言えば、彼は間違いなくメイシュの審査を通過するだろう。美術彫刻か人形のような、大層上品で整った容姿をしているのだから。

 けれど、もしも彼がラルカと同格かそれより下の家柄だとすれば、話はややこしくなってしまう。
 メイシュが二人の婚約に頷かなければ、何の意味もない。彼女は延々と王都に居座り続けるだろう。


「それについては何の問題もございません。
自己紹介が遅くなりました。
僕はブラント・ソルディレン。
ソルディレン侯爵家の長男で、アミル殿下の近衛騎士を務めております。自分で言うのもなんですが、おそらく、貴女のお姉さまのお眼鏡にも適うかと」

「まぁ......! 大変失礼をいたしました、ソルディレン様」


 ソルディレン家といえば、国が誇る名門貴族だ。顔と名前が一致しなかったというだけで、当然、ラルカだって知っている。

 元々は、優秀な文官を多く輩出している一族だが、長男のブラントは騎士として大成したらしいと噂で聞いた。騎士団で彼の右に出る者はいないということも。

 彼が相手なら、メイシュがダメ出しをすることはまずないだろう。