「ラルカ……」


 ブラントには直ぐに、彼女がどんな状況に置かれていたのか理解できた。

 どんなに怖かっただろう?
 本当は今すぐ抱きしめたい。けれど今、ラルカはそんなことを望んでいないだろう。

 ブラントは気を引き締め、ラルカをじっと見つめる。ラルカは力強く頷いた。


「わたくしはこれから、この子達に着替えをさせます。ブラントさまには、エルミラさまとアミル殿下にこの状況を――――わたくしが今から何をしようとしているのか、お伝えいただきたいのです。できたら、少しだけ時間を稼いでいただけると嬉しいのですが……」


 時間が惜しいのだろう。最低限の説明しかされていないが、ブラントにはそれで十分だった。


「承知しました。すぐに手配をしましょう。ラルカの着替えは?」

「ありがとうございます。わたくしの着替えについては、とっておきの一着を準備してありますので問題ございませんわ。元々、イベントの最後には、自分らしくありたいと思っていましたから」


 ラルカはそう言って柔らかく微笑む。


(ああ、敵わないな……)


 ブラントにとって、ラルカはどこまでも眩しく、輝いて見える。
 この笑顔を、願いを護ることができるなら、ブラントはどんなことでもするだろう。

 さて、最後の大仕事だ――――気合も新たに空を見上げれば、会場には、夜の帳が降り始めていた。